平成12年のGW初日、4月29日のことです。
第八話の「アオリイカの遊泳」に登場した釣友N氏と、N氏のお兄さんの3人で三浦半島の付け根、金田湾「つりの浜浦」で和船仕立て(ポイントまで船外機で行き、あとは船頭さんが艪を練りながら流す定員4人の小船)でイワシメバルを釣りに行きました。
「イワシメバル」という魚はいませんで、生きたイワシ(カタクチイワシ)をエサにして釣るからイワシメバルと呼ばれるのです。
ちなみに、久里浜の釣船では、生きたドジョウをエサにするので「ドジョウメバル」となります。
この時期(GW)はもうイワシをエサにしたメバル釣りの盛期は終盤で、数は望み薄ですが釣れれば良型のクロメバルが期待できます。
このメバルは「春告魚(はるつげぎょ)」といわれるとおり、2月~3月がピークです。
冬まだ明けきらぬ頃、寒さでかじかむ手で小さな(せいぜい10cmほど)イワシを弱らせないようにハリを付け、水面から5~6mのタナへ送ります。
岩陰から出てきたメバルに「喰われてなるものか」とイワシが逃げ惑う竿先のビビリ(前アタリ)のあとに、グイーン!グッグッ!ギュイーン!と柔らかく長めのメバル竿をしならせる・・・ン~たまりましぇーん!
港をあとにビーンと軽やかな船外機の音とともに沖へ向かいます。
やがてスローダウンし、船頭さん(和船では船長といわず船頭といいます)が陸の方をキョロキョロ眺めて山たて(沖から陸の建造物や目印になるものを3点見て決まったポイントに船を着けること)後、エンジンを切って「ハイ!やっていいよー。」
そして船頭さんは艪でギッチラギッチラと潮に逆らって船を流します。
海の上はベタ凪(とても静かな状態)で、艪の音と海鳥の泣き声だけが聞こえるだけです。
昔から「メバルは凪を釣れ」なんていわれていますが、今日は大漁の予感です。
カメ(船の生簀)からエサのイワシを、専用の小さなタモですくったはいいが、?マークが頭をよぎりました。
んーむ、デカッ!
エサのイワシがデカいんです。それもカタクチイワシでなく、マイワシで15~20cmもあり、ヒラメ釣りにピッタリサイズじゃないけー!
「これじゃメバルがビビッて逃げちまうよ」とN氏。
3人とも全くアタリがないまま1時間ほど経ってしまいました。
業を煮やしたボクは予備に持っていたジャリメ(ミミズみたいなやつ)をつけて下ろしてみたところ、一発で竿先がビビビビという魚信(アタリ)で掛かってきたのは立派なヒジタタキじゃありませんか。
ヒジタタキとは、その魚をつかんでハリを外すとき、魚がつかんでいる手の肘をビタビタと叩くから「肘叩き(ヒジタタキ)」というのですが・・・デカいシロギス!
それから3人はメバルをあきらめ、竿も仕掛けもキス用に交換してシロギス釣りに変更です。
ヒジタタキ級が入れ食い(仕掛けを投入する都度すぐ釣れる状況)でアッという間にエサ切れになってしまい、後ろ髪を引かれながらも終了することにしました。
港へ戻り、船頭さんが「イワシ持ってってや」と言うので、ンじゃクーラーに詰めるかって、例のタモで活きのいいイワシをバシャバシャとクーラーに分け入れ、たっぷりの氷を追加して持ち帰りました。
早上がりだったため、夕食には十分過ぎる時間があり、勿論イワシもサシミで食べるように調理しようと、冷たい氷水の中から揚げカス取りでイワシをすくっていて、「ンなんだこりゃ?」。
イカのちっちゃいのがポチポチとイワシをすくう度に出てくるのです。
で、面倒なのでザルの中へ全部ブチあけてイカをより取ったところ、50パイも入っていました。
これはまぎれもないスルメイカの赤ちゃんです。
おそらく、船のカメに生かしておいたメスのスルメイカが卵を産んで、その卵が孵ったんだと思います。
この赤ちゃんイカがもう少し大きくなったら、ムギイカ(麦の穂が出るころに釣れるから)です。
だからこれは「コムギ」・・・ボクが命名しました。
食卓にはシロギスとイワシのサシミ。
そして「コムギ」の姿造り?が並び、あらためてイカの美味さを堪能しました。
船の上で気が付いて、これをエサにすればもっとなんかいいのが釣れたか知れなかったなぁ・・・と後日N氏と話したものです。
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